成長に必要なのは「自律・分散・協調」ーー日本発ティール型組織・ネットプロテクションズに学ぶ、組織設計の新たな形

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本記事では、Xメンバー限定パーティ「新・車座」〜其の三十八〜の様子をダイジェスト形式でお届けします。今回のテーマは「ティール型組織は実現できるのか?」 です。登壇者は、株式会社ネットプロテクションズ執行役員・秋山瞬氏。

同社は、2018年4月に「役職としてのマネージャーを廃止する」人事評価制度「Natura(ナチュラ)」を発表。特定のメンバーに恒久的に権限・責任が集中するのを避け、自律・分散・協調に基づくティール型組織の実現を目指します。

“社員間の競争意識を排除し、心理的安全性を醸成することで、これまで以上に成長と価値発揮に力を傾けることができる環境が構築されることを期待しています”という衝撃のプレスリリースから早5ヶ月。

現代の多くの民間企業が採用しているマネジメントである「達成型組織(『もしも自分たちが頑張らないと、会社が滅んでしまう』というプレッシャーによるマネジメント手法を取る組織)」を脱し、「信用・信頼」をベースとした「つぎのアタリマエ」をつくることはできるのか——次世代型組織を目指す、最先端企業の取り組みを追いました。

「会社の成長」と「社員の幸福」は実現できるのか?大量離職を乗り越えた、「自律・分散・協調」への道のり

ネットプロテクションズは、「つぎのアタリマエをつくる」をミッションに掲げる会社です。ミッションには、「ネットプロテクションズだからできたよね」と、会社規模で社会に変革を起こすような「今のトクベツ」に止まらず、「社会全体に新たな価値観をもたらす」という想いが込められているのだといいます。

その想いを反映しているのが、ティール型組織実現のための人事評価制度「Natura(ナチュラ)」です。

「Natura(ナチュラ)」が目指すのは、「もしも自分たちが頑張らないと、会社が滅んでしまう」というプレッシャーで企業の成長を促す、現代の多くの民間企業が採用しているマネジメント手法「達成型組織」とは真逆の価値観から生まれているもの。

プレスリリースに、「社員間の競争意識を排除し、心理的安全性を醸成することで、これまで以上に成長と価値発揮に力を傾けることができる環境が構築されることを期待しています」と掲げられていたように、全く新しい手法でマネジメントを行い、企業の成長を目指しています。

車座にご登壇いただいた執行役員の秋山氏曰く、「Natura(ナチュラ)」構想が立ち上がった背景には、過去に大量離職が発生した苦い経験があったのだそう。

秋山「5年ほど前に、全社員で新たに企業のビジョンを策定し、つくられたのがミッションである『つぎのアタリマエをつくる』と7つのビジョンです。その結果、残念ながら理念に共感できないメンバーが大量に離職していきました。一方で、ミッション・ビジョンという軸ができたので、事業だけでなく組織づくりにおいても『つぎのアタリマエをつくる』ことを本質的に考え、会社の成長と社員の幸福の両立を目指し、組織改革を行いました。

メンバーが会社と事業に従属するのではなく、会社とメンバーの関係をフラットへと移行し始めたのです。『メンバーが個人のWillを実現するために120%ワクワクしながら働くからこそ、会社成長につながるのだ』と考えをシフトしました」

当時の組織変換について、参加者の西村創一朗さんから「組織体制の変化は、経営陣がトップダウンで行ったのではなく、社員を巻き込んだのでしょうか?」と質問がありました。

秋山さんは「トップダウンではなく、全社員を巻き込んでやりました」とのこと。社員が自発的に参加したからこそ、メンバーが定着する組織へと転化することができたそうです。離合集散はあれど、組織の理念に強く共感するメンバーが増えたため、「組織の“密度”が高くなっている」のだといいます。

また、翌年からジョインするメンバーは、組織への共感が高い状態なので、以降離職率が低下し続けているのだそう。

そのマインドシフトの延長線上にあるのが「Natura(ナチュラ)」です。「ティール組織」の概念が日本に普及したのは、書籍『ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』が出版されたことに端を発しますが、「Natura(ナチュラ)」構想は、その1年前からスタートしているとのこと。

もともとティール組織を目指して発足した人事評価制度ではないそうですが、今後ティール型の組織になることを志向しているため、その前段階として「Natura(ナチュラ)」を発表しています。

秋山「ネットプロテクションズが目指す組織像として、「自律・分散・協調を実現するティール型組織」としています。ティール組織で語られる文脈は「自律・分散」がメインですが、あえて「協調」を加えているんです。

なぜなら、社員の成長・自己実現を相互支援することが大前提にあるからです。その上で、プラスアルファの価値として、社会の発展や会社の成果を同時に叶えていくことを指針にしています」

マネージャーではなく、カタリストが必要だ。全社員が自走する、次世代型組織への取り組み

講演でお話いただいた「Natura(ナチュラ)」の特徴的な点は、「マネージャー職の廃止」、「報酬の適正配分から成長支援」、「フェアな報酬ポリシー」の3つです。

まずは、「マネージャー職の廃止」。従来の組織マネジメントは、組織(部署)を統括するマネージャーが、メンバーを育成・評価するのが通例でした。しかし「Natura(ナチュラ)」では、マネージャー職を廃止し、代わりに「カタリスト」という役割を配置します。

マネージャー職を廃止する一番の理由は「自律・分散・協調組織を運営するためには、全員がマネジメントポジションとして機能する必要があるから」、特定のメンバーに権限・責任が集中する、役職としてのマネージャーは不要だと考えられています。

秋山「カタリストの役割は、各部署における『情報』、『人材』、『お金』の采配ですが、積極的にオープンにすべき人に関する機微な情報やそれに紐づく組織アーキテクチャ設計以外は、基本的に権限委譲可能だと考えています。また、カタリストの数は1名に限らず、チーム人数の10%程度存在することが望まれます。そして、カタリストは各期で流動的に交代し、任用もチームメンバーが合意すれば自由です。なので、特定の個人に権限・責任が集中することはありません。責任を分散させるので、不祥事が発生した際に、謝りに行く担当者が毎回違うということもあります。そうしたことがあっても、問題ないと考えているからです。

あるシチュエーションではAさんがリーダーで、Bさんがメンバー。しかし、異なるシチュエーションでは、その関係が逆転する。このように、固定的なヒエラルキーが存在しない状態を『フラットな組織』だと定義し、そうした組織設計を目指しています」

続いて、「報酬の適正配分から成長支援」です。ネットプロテクションズでは、マネージャー職の廃止に伴い、評価者と被評価者の関係性を解消します。具体例をあげると、『ディベロップ・サポート面談』という、「1 on 1」面談から、「N on N」面談へのシフト。複数人同時に面談をする訳ではなく毎月面談する人が変わる形式で、評価者と被評価者の関係を固定化せず、全ての人材が「評価者であり、被評価者」である状態になります。

秋山「『評価する』という考えでは、関係がギスギスしてしまいます。なので、基本的なスタンスとして『成長支援』を前提に面談を行います。面談では、『秋山さんの成長を支援する観点で、アドバイスやフィードバックを行います』という対話がされるのです。

賞与の決定など、最終的な業績評価はカタリストかカタリストが権限委譲したメンバーが行うものの、こちらの権限も集中しない工夫をしています。複数人にて評価を行う委員会を設置しているので、給与や賞与の決定などを、一人の決裁者に委ねることはありません」

競争意識の排除によって、心理的安全を醸成する。「Nature(ナチュラ)」にみる、つぎのアタリマエ

最後が、「フェアな報酬ポリシー」です。ネットプロテクションズでは、社内から競争意識を排除するために、新卒1〜3年目は基本的に年功給が採用されているのだといいます。以前は若干額の差を設定していたのですが、「なぜ金額が違うのか」といった議論をなくすために、給与額が決まっているそうです。

秋山「合計で5つのグレードがありますが、ある程度の基準は定められています。明らかに基準を満たしている場合に限り、グレードが上昇していく仕組みです。その際の評価も、個人ではなく、コンピテンシーをベースに複数人が評価を行う「360度評価」によって決定されます」

秋山「360度評価のベースとなるコンピテンシーは基本的にマインドと基礎スキルに加えて、複合スキルの3階層で定義されています」

ちなみに、社員のバンドは開示されるそう。「あの人はこういう動きをしているから、バンド2なんだ」と、全社員が分かるかたちです。

相対評価で奪い合うような競争ではなく、絶対評価での基準を理解するからこそ主体性が生まれ、さらに相互に成長支援していくことで思考と行動が加速する。車座の参加者からも質問が活発に飛び交い、多くの学びが生まれていました。

参加者の一人から「この人事評価制度は、財務的に余裕がある会社じゃないとできないことですよね?」と質問がありました。

秋山さんは質問に対し「その通りだと思います。弊社の理念は『つぎのアタリマエをつくる』ですが、財務の安定を生んでいるのは決済というインフラかつオペレーティブな事業で、一見するとイノベーティブなミッションとは矛盾しています」と回答。

秋山「沿革を辿ると、オペレーティブな事業を立ち上げるために、創業当初はトップダウンの組織体制で事業を推進してきました。その際に迎えた事業立ち上げにおける死の谷を越え、現在は財務が安定してきたんです。その上で、組織も徐々に変化してきました。財務の安定があったからこそ、組織体制を刷新できていると思います。そして、理想とする理念(頭)に実態である組織(体)を合わせていくこの試みが「Natura(ナチュラ)」なんです。」

組織に求められるのは、至らなさを埋める成長意欲

講演の最後には、「Natura(ナチュラ)」という名称に込めた想いについて語られました。

秋山「私たちが大事にしているのは、人が人らしく、ありのままでいられることです。その状態こそが、幸せだと考えています。その幸福を実現するための制度なので、Nature(ネイチャー)の語源にあるNatura(ナチュラ)を採用しています」

講演が終了したあとに、秋山さんに「離職者が増えたときに、秋山さんが会社に残った理由は何ですか?」と質問したところ「まだまだこの会社でできることがあると考えたからです」と教えてくれました。

秋山さんの講演と、質問に対する回答を聞き、「ほしい未来は、必ずしも、今できることの延長線上にあるものではない」と感じました。現在ネットプロテクションズは、組織の「アタリマエ」をアップデートすることに成功し、さらなる成長を目指して試行錯誤している段階です。

しかしかつては、大量離職を経験するなど、事実として未完成な組織だったこともある。そうした逆境を越え、今に至った背景には、ビジョンの実現を目指して改革を推進してきた、ビジョナリーな秋山さんの存在があったからではないでしょうか。

「まだまだできる」という前向きな姿勢が、次世代型組織として注目されるネットプロテクションズをつくりあげた要因になっているのは、間違いありません。

本日参加した車座のメンバーは、講演の終了後に行われたミニワールドカフェで、理想的な組織の形を語り合いました。今日の学びは、各々が所属する組織がより良い方向へと舵を切るきっかけになるかもしれません。

僕自身、車座に参加したことで、「至らなさを埋める成長意欲が、つぎのアタリマエをつくるのだ」と感じました。組織改革の文脈に限らず、ビジョンのもとで働くことの重要性を感じた有意義な時間でした。

ライター:オバラミツフミ
Publicist at Traimmu / Editor in Chief at co-media / 『選ばれる条件』(木村直人・エザキヨシタカ 共著) / 『10年後の仕事図鑑』(堀江貴文・落合陽一 共著)など

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