Atsuko Miyashita
大手電機メーカーの海外営業、広報を経て独立。アメリカ在住。
幼少期と大学時代をイギリス・ドイツ・ブラジルで過ごした経験から、比較文化に強い関心を持つ。
2016年12月よりエックス会員。Xブログ運営の主要メンバーとして携わる。
http://matching-project-x-blog.com/
この記事は、X-エックス-が2月に行った上海の視察から学んだことをまとめたものです。
他者を知ることで、自らを振り返る。
そのためのヒントになればという思いから、異文化についてのさまざまな考察をお届けしています。
16日間にわたって行われた全人代が閉幕し、集近平体制による権力の一極集中をさらに印象付けた中国。
振り返って、一般の国民の日常にスポットライトを当ててみると、日本のバブル期に似たような懐かしい姿と、日本の常識ではなかなか考え難い特殊な事情が浮かび上がってきた。
農村生まれに課される鎖
今から半年ほど前、フォーブス誌が世界の所得に関するちょっと衝撃的な記事を出した。
上海の平均賃金が一部のEU諸国のそれを上回ってきているという。それによると、上海は月給にして$1,135。
2018年3月現在のレートで約12万円と、日本の平均賃金にはまだまだ及ばないものの、中国を低賃金の世界の工場としてとらえてきた人々からすると、「いつの間に?」という印象だろう。
さらにマネジメントレベルでいうと、日本より中国の方がむしろ高いといわれている。
ただもちろんこれは中国でも農村部との間には大きなギャップがある。
上海の平均月収は農村ではほぼ年収にあたるというのが大方の見方だ。
さらに中国では農村で生まれた人が都市の戸籍をなかなか取れないというハードルがある。
特に上海などの大都市ではポイント制を敷き、学歴・納税状況・家族状況・上海居住年数など幅広い項目を点数化している。
農村出身の人は120点を超えないと上海に戸籍を持つことはできず、これは超トップ大学に入ったり難関の国家職業資格を取ったりなどの秀でた何かがない限り、現実として相当厳しい。
戸籍を持たずとも上海に暮らすことはできるが、様々な優遇措置が受けられず生活が苦しくなるほか、その後結婚して子供ができたりすれば、その子を上海の学校に通わせることはできず、結局出ていくことになる。
そういった厳しい現実があるためか、上海では家を所有していない男性が結婚をするのは非常に難しいという。
そのため、息子が結婚できるよう親たちは必死になって働き、家を買ってあげる。
そう、親が買うのだ。
上海では男の子が生まれると「建国銀行」、女の子だと「招商銀行」という冗談がある。
男の子であれば家を買ってあげるためにこれから国を建てるように働かなくてはならないが、女の子なら投資を得られてラッキー!(将来的に家が手に入る)という気持ちを実在する銀行に例えた話だ。
農村部では家族制度の維持のため男の子が産まれることが断然好まれることを考えると、都市と農村で価値観も大きく異なることがわかる。
親たちの婚活現場に潜入
そのあたりの事情にとても興味が湧いた私は、「親たちの婚活」が行われていると噂の日曜朝イチの人民広場に向かった。
めずらしく空気が澄んで清々しい朝だった。
太極拳や武術に興じる人々を横目に進んでいくと・・そこに何やら異様な光景が目に飛び込んできた。
色とりどりの傘が開いた状態で並べられ、それが数百メートル先まで続いていたのだ。
「もしやこれが噂の・・」
傘を覗き込むと、そこには生々しい表現が。間違いない、ここがソノ婚活現場だ。
書かれていることはだいたい決まっている。自身の(というか結婚させたい子供の)性別、出身地、年齢、身長、学歴・・。
そこまではほぼ例外なくその順で並んでいる。
しかし情報が少ない。定量的な条件ばかりで、性格などにはほとんど触れていない。写真もない。
身長が必ず上の方に記載されているけど、そんなに大事?とやや小さめな私はいぶかしんだが、そういえば適齢期に見えるはずの筆者に声をかけてくる人は誰もいない。
きっと外国人だと見抜かれてるのよ。
それか、本人が現場に来ることなんてないのよ。
うん、そういうことにしておこう。
それにしても、これら全部をファイルに落としてAIに読ませたら、すべて序列で順番に並べられそうな超定量的な情報ばかりだ。
それを超アナログに傘で飾るのもよくわからない。
端からバーッと見て、一番条件のいいところに走って行くのだろうか・・。
そう思いながらぶらぶら歩いていると、その先にすごい人だかりを見つけた。
見向きもされない傘たちがずらっと続く中、長蛇の列を構える超人気物件があったのだ。
どれどれ・・と条件を覗いてみる。
男性183cm、有名大学博士課程卒、アパート所有
なるほど。とてもわかりやすいけどもっ。
メモを取る親たちの顔が真剣すぎてコワいです。
大事な3つがバッチリ揃った好条件に興奮が抑えられないのだろう。
結婚ってそんなんでいいの?と思いながらも、日本にもかつて高度経済成長期にあったという「3高伝説」を思い出す。
「きっと性格に難ありよ」と、声もかけられなかった筆者は捨て台詞をはいてその場を後にした。
親が払ってくれるから大丈夫
そういえば、「3高」の1つである収入に関する記述はあまり見なかった。
その代わり、家を持っているという情報が目立ったのは、先の事情によるものだろう。
上海で独身生活を謳歌する地元女性に聞いたところによると、相手の所得が低くても親がサポートしてくれるものなので、そこはあまり気にならないそうだ。
やはりそれより家などの財産の方が重要、とさらっと話してくれる。
しかしその代わりに親が言うことは絶対で、友達とずっと前から約束していたとしても、当日になって親が会いに来ると言いだしたら親の方を優先せざるを得ないとのこと。
やはりちょっと感覚が違う。
そんなこともあって彼女のように両親の手厚いサポートが期待できる人たちは自分が稼いだ分は使い切る人たちが多いというのだが、そこで当然の疑問が湧いてくる。
自分たちに子供が生まれたらどうしていくつもりなのだろう。
―彼女の答えは明快だった。
その時に世の中がどうなっているかわからない
かっこいい・・っていやいや、逆でしょう。
どうなっているかわからないから逆に備えるというのが私たち日本人の常識。
どうしてそんな清々しい笑顔でlet it be的なことを言えるのでしょう。
政府に家返せと言われたら?
たしかに数年後、上海がどうなっているかは未知数だ。
実際過去10年間で上海の経済状況は大きく変貌を遂げた。
居住者の体感値を総合すると、この10年で住居の価格は5~10倍ぐらい上がっているという。
10年前に5000万円で買ったマンションが5億円になったりしているのだ。
だからこそ家を所有していることが大事であり、自分が暮らすところ以外にも持っていればそれだけで働かなくても生きていける状況が現に生まれている。
でも日本人からしたら、「これから泡がはじけますー」と書いてあるようにしか見えない。
意地悪にも彼女にそう伝えてみたが、
「大丈夫。だから政府が介入してコントロールしています」
と自信をもって返された。
中国は日本のバブルを徹底的に分析しているとのこと。
そして、中国の不動産価格は中国経済のバロメータとして世界中から注目されているため、政府が何としてでも維持するはずと。
えー、本当に大丈夫?と思いながら、それならばとさらに突っ込んでみた。
家を所有しているといいながら、実際のところ中国では政府から使用権を「借りている」のが実態のはず。
土地の使用権期限の70年が経ち、政府にさぁ返せと言われたらどうするの?
ちなみに実はこの質問、日本人駐在員にもその前に聞いていた。
彼の答えはこうだった。
そんなことをしたら暴動が起きる。
政府が最も恐れているのは体制の転覆。
だから、「その時」が来ても政府は返還しろとは絶対に言わない。
その答えに妙に納得した私は、どこかで中国人の彼女も同じような答えをする気がしていた。
しかし、違った。
もし返還しろと言われたら従うしかない。
我々はそういう教育を受けてきた。
そう答える彼女に、本音を隠している気配はなかった。
そしてその顔には、悲壮感のような影もまったく見当たらなかった。
次回は、中国の人たちの奥に見える二面性についてお話しします。
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