Atsuko Miyashita
大手電機メーカーの海外営業、広報を経て独立。アメリカ在住。
幼少期と大学時代をイギリス・ドイツ・ブラジルで過ごした経験から、比較文化に強い関心を持つ。
2016年12月よりエックス会員。Xブログ運営の主要メンバーとして携わる。
http://matching-project-x-blog.com/
この記事は、X-エックス-が2月に行った上海の視察から学んだことをまとめたものです。
他者を知ることで、自らを振り返る。
そのためのヒントになればという思いから、異文化についてのさまざまな考察をお届けしています。
前回(1.統制と自由の間、それでも政府を信じる)は中国政府によるIT規制と、それでも政府への信頼は高いという調査結果をご紹介した。
政府への信頼は右肩上がりの経済成長によるところが大きいと思われるが、中国には今なお大きな貧富の差が存在するのも現実だ。
社会主義でありながら資本主義の要素を多くもつ中国。
背景を少したどってみよう。
「金儲けは善」となった中国
毛沢東氏が死去し文化大革命が終焉した後の1970年終わり。
時の最高指導者・鄧小平氏は、事実上の中国首脳として初めて訪日を果たした。
当時世界一の貿易黒字国となっていた日本の企業に大きな関心を持ち、日産自動車やパナソニックなどの施設を精力的に視察して回った。
経済を立て直すことが何より重要だと考えた鄧氏は、社会主義経済の下に市場経済の導入を図る「改革開放」政策を推進。
その基本原則として「富める者から先に富め」という「先富論」を唱えた。
国を豊かにするために社会主義でありながら個人の利益追求を公に認めたのである。
しかし、「金儲けは悪」だとして生命までもおびやかした時代が続いた後のことである。
いきなりそれが善だと言われても、国民は戸惑った。
そこで鄧小平は「特色ある社会主義国家」という言葉で、今までの社会主義とは違うのだという点を強調し、人々を納得させた。
こうして生まれた中国式の「社会主義市場経済」は、今日まで続いている。
中国などと比べ、日本では「儲け」や「消費」についてネガティブに語られることも多いように思える。
そのことについて、江戸時代「士農工商」において「商い」が最後だったためだという説もあるが、実は「農工商」の差はほとんどなかったことが最近発見された。
というかそもそも、「士農工商」は中国から来た話だ。
平安時代から「清貧」の思想がさまざまな書物で語られてきたことを考えると、仏教や儒教が関係しているようにも思えるが、そうするとやはり中国が起源となり、説明がつかない。
これはお金重視かどうかというより、お金だけに限らずそういうことについてオープンに話す文化かどうかという問題でもあるかもしれない。
日本には、ひけらかすことをよしとせず、慎み深いのを尊ぶ謙遜の文化がある。
国民性に関するジョークで、ある課題を与えられた時、各国の人々がどんな反応をするかという話がある。
各国の人々は「できた!」と次々手を挙げながらも実際はあまり出来ていないのに対し、日本人は皆手を挙げないのに実際は完璧に出来ているというジョークで、言いえて妙だといつも笑ってしまう。
「主張する文化」の思考回路
海外で7年暮らしてきた私がいまだに苦労するのが、この「主張する文化」への適応だ。
周りの日本人を見ていても、外国で暮らすときここが一番の障壁になる人が多いと感じている。
自分で主張しないと餌が回ってこないという大変さだけでなく、主張する文化の中での思考回路に慣れないと、自分がとても疲れてしまうということがある。
たとえば、誰かからものを借りていた時に「あれ返して」と言われたとする。
そんな時私は言われるまで気付かず借りていた自分を反省し、謝ったりするが、それはあくまで察する文化の中で「相手はちょっと我慢してたのだろう」というような前提に立っている。
しかし主張する文化では、相手は「あ、返してもらおう」と思い立ってすぐのことだったりする。
そして、「私もソレ必要になりました」という情報の伝達以外の意味合いは皆無だったりする。
私は決して空気が読める方ではないと思うが、それでも日本ではいろいろ察しようとしてきたんだと気付くとともに、海外ではそのスイッチを少し緩めないと息切れするな・・とよく感じる。
振り返ってみると、その「主張文化」を私はけっこう中国人に教わってきた。
昔イギリスで夏休みの2か月だけ中国人7人と一緒に暮らしたことがある。
7人もいればそこの空気は中国色に染まっていたはずだが、その中では家のルールなどについて、みんなが互いに主張しあって共同生活が成り立っていた。
無意識に近いレベルなのだが、イギリス人やドイツ人が自分と違う行動をする時より、同じアジアの中国の人などの時の方が、その違いをはっきりと認識したりする。
そして「なぜこんなに自己主張するのだろう・・」と疑問に思ったりして、ハッとする。
見た目が自分自身と似ている彼らに、どこかで私は彼らの内面に対しても「あまり違わない」ことを期待してたのではないかと―。
次回は、上海で生きていくことの大変さを、婚活現場の潜入レポートとともにお伝えします。
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